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最高裁判所第三小法廷 昭和48年(行ツ)38号 判決

札幌市中央区南一九条西七丁目一〇六七番地

上告人

有限会社 札南自動車練習所

右代表者代表取締役

関野勝美

右訴訟代理人弁護士

牧口準市

札幌市中央区北七条西二五丁目

被上告人

札幌西税務署長

宮原淳

右当事者間の札幌高等裁判所昭和四七年(行コ)第六号法人税更正決定処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和四七年一二月七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人牧口準市の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は、すべて正当であり、論旨は、所論法条についての独自の解釈を前提とするものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官の全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)

(昭和四八年(行ツ)第三八号 上告人 有限会社札南自動車練習所)

上告代理人牧口準市の上告理由

原判決には行政事件訴訟法一四条一項の解釈を誤つた違法がある。すなわち行政訴訟法一四条一項に規定する。処分又は裁決があつたことを「知つた」とは、処分又は裁決のあつたことを現実に知り、かつその出訴期間が三箇月であることを認識した日と解すべきである。その理由は以下のとおりである。

一、租税訴訟制度は、国家権力による個人の財産権に対する侵害を救済することを目的とするものである。しかして、その救済は著しく不合理でない限りできるだけ広範囲に認めることが制度の目的にそうものである。

二、行政訴訟の出訴期間ははじめ「処分書若クハ裁決書ヲ交付シ又ハ告知シタル日ヨリ六十日以内」(行政裁判法二二条)、と定めていたが、民事訴訟法応急措置法八条ではその期間を六箇月とし、これに続く行政事件訴訟特例法五条も同じ期間を維持し、救済範囲を拡大した。しかるに行政事件訴訟法の制定段階で、「出訴期間が長期にすぎることは行政上の法律関係の安定に支障を来たすことも少なくありませんし、諸税の立法例においても六ケ月の如き長期の出訴期間を認めておるものではなく、また一般法たる本法において出訴期間が長期に失しますとかえつて各種特別法規においてより短期の出訴期間を定める傾向を生じ、その間不統一を生ずる弊害が生ずるわけであります。他方従来の出訴期間の情況に照らしましても、またこの出訴期間は、控訴人が処分を知つた日から起算されるものであり、かつこれを不変期間としてあるものでありますから現行の出訴期間を短縮いたしましても出訴権を制限するような支障は生じないと考えます」(第四〇国会政府提出行政事件訴訟法案逐条説明書)ことを理由にその出訴期間を三箇月に制限した。しかして、その制限理由は、主として行政行為の早期安定を目ざしているものであつて、その相手方である国民の実情を考慮していない。すなわち、一般に国民は行政事件訴訟法という特殊な法規が存在することを知る者は少く、ましてその期間が三箇月の短期であると知る者は、稀な存在というべきである。比較的良く知られている国民の短期消滅時効でもその期間は一年である。又かりに、三箇月ということを知つたとしても訴提起の資料のしゆう集、訴訟に要する費用の調達に相当の期間が必要である。要するに、行政行為の早期安定を考慮したとしても、三箇月は短いのであつて、その不合理性を救済するためには前記のような解釈をすべきである。

三、さらに、一般国民が出訴期間が三箇月であることを知らない理由と関連し、教示制度の不備があげられる。国税通則法では、税務署長の更正決定、異議決定に対する不服申立方法の教示義務は規定しているが裁決に対する不服申立方法の教示義務を規定していない(同法八四条六項、一〇一条一項等)。したがつて本条の「知つた」日を従来のように処分又は裁決があつたことを現実に知つた日と限定的に解釈すると、三箇月の期間が短いこともあつて出訴権の制限が非常に強いものになりそれだけ国民の権利救済をせばめる結果となる。

以上

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